「やるべきこと」がなくなったあとの手持ち無沙汰な一日は、愉快である。
その日、7時に起きるとすぐ映画を見た。オアシスという韓国の映画。軽度の障害を持った男が、ほとんどしゃべることができない、自分の足で立つこともできない女に恋をした。誰からも煙たがられる男。いつも歪んだ表情で、何かを訴えるように手足をばたつかせている女。
突然、男は、女に襲い掛かった。女は、頭をくねらせ、体を振りながら、もがき苦しむ。その様子は、激しく痛ましい。『正常』な人間ならば、つい目を背けたくなる光景である。だが、映画は次のように問いかける。「どうして、女の気持ちがわかるのか」と。
女が本当に苦しんでいるのかは、実は、視聴者には判断できない。なぜなら、女は自ら自由自在に感情を外に表現することができない、嬉しいときに笑うこともできない。苦しい状態こそが「普通」の状態であるからだ。こののち、コミュニケーションから排除されるがゆえ、コミュニケーションに飢える二人がお互いを求め合うようになる。
お昼、「創造工房」の演劇を見に日吉へ行く。
肌寒いが、天気は快晴。劇まで時間は存分にあるので、ひようらに立ち寄る。
窓越しに太陽の日を浴びながら、スターバックスで手嶋龍一の『外交敗戦』を読む。湾岸戦争で日本は何を失い、どう変わったのか――。そんな主題より何より、多大な支援をしたにも関わらず、感謝を示さなかったクウェート政府の無神経さに腹が立った。不健全なナショナリズムが僕の中でごうごうと音を立てて高揚していく。
18時、演劇「止まらずの国」が始まった。
舞台は、見知らぬ中東の国のドミトリー(安宿)。6人のうちの3人は、ベテランのバックパッカー。2人は旅を始めたばかりのド素人。1人はやっと旅慣れてきた感じの男。
物語の前半部分は、日本の『日常』の生活と対比させることで、異国・中東の地の『非日常』の生活を、驚きと興味をもって生き生きと描き出す。だが、この異国の非日常性をだらだらと時間をかけて演じることにより、舞台上には「慣れ」が生じてくる。その結果、異国はだんだんと「自国的なるもの」へと変質を遂げていく。「人間、みんな優しいじゃん」という、ある種の博愛主義にも似た感覚が醸成されていくのである。
この柔和な雰囲気のなかで何が起こったかというと、すなわち、テロリズムだった。
ドミトリー(宿)の外では、突然、けたたましい爆撃音が鳴り響く。どこからともなく兵士と戦車が姿を現し、「普通ではない」雰囲気に現場は包まれる。日本の旅人たちが作り出した、異国の『穏やかな幻想』イメージはまもなく瓦解し、極度の非日常性が再び舞台を覆い込む。そこから、彼らの頭に想起されたのは『帰るべき平和国家像』としての日本であった。
帰りの電車のなか、夏目漱石の「草枕」を読みながらこう考えた。暇が一番だと。
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