今日、みんなでボウリングに行く予定だったが、急遽中止になった。
さてどうしようかと思って歩いていたら、大学の立て看板に「あなたは聞き上手ですか」と書いてあるポスターを発見した。よく見てみると、臨床心理の先生が、「上手な話の聞き方」について教えてくれるというものだった。主催は、学生総合センターらしい。
人の話を上手く聞けない症候群のぼくは、一緒だった友達とさっそく行ってみた。
大学院棟の教室に入ると、なんと、そこいるのは3人だけだった。あとから来た人も合わせて、全部で参加者は7名だけ。先生を真ん中に囲んで、少人数の「聞き方上手」講座が始まった。
簡単な心理学レクチャーを受けたのち、いきなり実践に入った。
一人を『話し手』、一人を『聞き手』として選んで、みんなの前で10分間会話をしてもらう。目的は、聞き手がどのように話し手の話を聞いているかについて、みんなで観察し、聞き手の悪い癖を発見しようというもの。テーマは無い。何でも自由に話して構わない。
二人の会話が始まった。お互いに自己紹介して、聞き手が話し手に対していろいろと質問をしていく。どんなことをしている人なのか、どんなサークルに所属しているのかなど、「プロフィール」的なことを途切れることなく聞いていく。ただ、時にボクシングサークルの話題を振ったり、時にバイトの話に変わったり、正直、ぎこちない印象を受けざるをえなかった。
区切りの良いところで、先生が止めた。
「どうでしたか?」。聞き手に聞くと、緊張した面持ちで、「あんまり上手く聞けなかった」と答える。逆に、話し手は「あんまり自分がしゃべりたかったことがしゃべれなかった。」と不満そうにいう。
「なるほど」。先生が解説する。
会話のぎこちなさの原因は、話し手の不満―「自分がしゃべりたいことがしゃべれなかった」―に要約されている。聞き手の男は「たくさん質問することで、彼との共通点を発見できる。そうすればお互いに円滑なコミュニケーションが取れると思った」から、プロフィール的な情報について詳しく聞いていたのだという。しかし、問題はそこではない。ボクシングをしていたときに何を思い、どんなことを感じていたのか――話し手は、その具体的な「気持ち」の部分について聞いてもらいたかったのである。
次のもう一組も、だいたい同様の結果だった。
聞き手が、自分の聞きたいことに合わせて質問して、話し手が話したいところを無視してしまう。相手の情報の中でも自分にとって有益なものを引き出そうと質問する。だから、自分のフレームに合う話を優先的に選び取って聞いて、相手のフレーム(話したいこと)については等閑してしまったと。
× × × × × ×
聞き手をやった男性は、今までは「自分のコミュニケーション能力や相手から話を引き出す技能に自信を持っていた」と言っていたが、今回の結果を受けて、少し凹んでいるようだった。
彼は、当初から「コミュニケーション」をある種の「技能」であるとか「能力」だと思っていた。僕はそういう考えをすること自体が、ボタンの掛け違いだと思っている。なぜならコミュニケーションとは、「姿勢」の問題だと考えているからだ。技能でもなく能力でもなく、単なる「姿勢」や「意思」の問題である。
話し手にしゃべりたいことを気持ちよくしゃべってもらおうとか、相手はこれを話すことで何をいいたいのかとか、その時の話し手の気持ちはどんなものだっただろうとか――聞き上手とは、そのように、常に話し手の側に身を寄せるという「決死の意思」以外のなにものではないと僕は思っている(そして、今回それをまた確信した)。
…それにしても、プロの臨床家は本当にすごいなと感心した。上に述べたことはものすごく簡潔にまとめただけであり、実際には細かいながら重要な指摘が他にもたくさんあった。瑣末な情報しかないにも関わらず、そこから本人の本質性を言い当てる。感動の瞬間である。今年度はもうやらないらしいが、来年度、もし機会があれば、みなさんにも受講してみることを強くお勧めするのである。
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帰らなきゃ良かったーーーーー
>sawada氏
半分ヒヤカシで行ってみたら、
むちゃくちゃ面白かった(^^)
最近ついてないね、sawada氏。
がんばれ☆