「でっちあげ」~福岡『殺人教師』事件の真相

 003年、福岡市のある小学校で起こった、全国で初めての、教師による生徒いじめ事件。
 教師は、親にアメリカ人の血が流れていることから、児童に対して「お前の血は穢れている」、「純粋な日本人の血が、外国人によって汚されている」などと差別的な発言を、執拗に吐きかけた。
 帰りの会の最中には、「10秒数える間に帰りの支度をしろ」と男児生徒に無理な要求をして、10秒でできなければ、彼のランドセルや学習道具をゴミ箱へ投げ捨たり、罰として虐待を加えた。
 あるときは、生徒の両耳をつかみ、身体を持ち上げ、ブンブン振り回した。生徒の耳は引きちぎれ、血が噴出し、化膿した。またあるときには、鼻をつまんで鼻血が出るまで振り回した。彼は、それぞれを、「ミッキーマウスの刑」と、「ピノキオの刑」と呼んで楽しんでいたという…。
    × × × × × × ×
 マスメディアは、「殺人教師」というレッテルをつけて「過剰」に報道した。
 朝日新聞の“スクープ”を皮切りに、西日本新聞、毎日新聞の報道が続いた。そして週刊文春にいたっては、「『死に方を教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の殺人教師」、というタイトルをつけて、教師の実名を公表し、センセーショナルな報道を垂れ流した。
 だが、真実は、この本のタイトルどおり、「でっちあげ」だった。
 
 教師は、差別などしていないし、体罰もしていなかった。事実無根の言いがかりだったにもかかわらず、マスメディアに「祭り上げ」られ、結果的に停職6ヶ月の「公開処刑」に処された…。
 犯人は、男児生徒の両親だった。
 母親は、嘘の事実を作り出し、迫真の演技で、息子がいじめられているとアピールすると、みんなころっと騙された。教師の言い分よりも、保護者の虚言を信じた校長や教頭。検証を怠り、報道を行ったマスメディア。涙に誘われるがままに、550人もの人数を集めた能無しの大弁護士団。
 みんな、彼を、悪魔だと思い込んで疑わなかった。
    × × × × × ×  
 
 「私も、彼を体罰教師と決め付けた記事を書いていたかもしれない、その差はほんの紙一重だ」。
  著者はあとがきでこう書き記していた。
 彼女は周辺取材、保護者や生徒へのヒアリングを通じて、彼が「殺人教師」であるか疑問をいだく。そして当事者の教師と長時間に渡って直接話をすることで、「彼は殺人教師ではない」との思いを強くした。これが、彼女の「紙一重の差」であった。
 記者というものの社会的責任の重さについて、「自覚的」であるかないか。著者と他の記者との間には、その差が現れたのだろう。朝日の“節操なスクープ”と、追い討ちをかけるような週刊文春と西日本新聞の“特ダネ”は、先にネタと取ってくるというような、ある種のゲーム感覚に酔い潰された結果ではないのか。あるいは、自分たちを“正義の存在”として思い込んで疑わなかった結果ではないのか(自分の正義を信じて疑わない人間は、どこか危なさをはらんでいるということを忘れてはいけない)
 あまりの杜撰な悲劇に、ページを繰りながら、心底怒りが沸いてきたし、情けなくて涙も出てきた。
 著者が、当時の朝日新聞、毎日新聞、西日本新聞、週刊文春の記者たち(本の中では、すべて実名が公表されている)にインタビューをしても、彼らはすでに事件のことには無関心で、週刊文春や朝日新聞の記者にいたってはほぼダンマリを決め込む始末だった。
 教育問題においては、マスメディアは学校に対して不信の目を向けがちになる。「子供=無垢」で、「学校=抑圧者」というイメージが、70年代以降ずっと続いてきたからだ。学校批判に議論が集中し、それの構造を作っている政策の批判は弱い。(せいぜいゆとり教育批判くらいだ)。そういう前提を持ってしまっているということをもっと自覚しなければならないと思う。メディアの側も市民の側も。
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モンスターペアレンツが「人間」と思えない「純粋な邪悪性や狂気性」を持っているという点で、冤罪・報道被害という点で、悲しみと怒りが湧き上がって仕方がないという点で、そしてグイっと引き付ける筆力という点で、清水潔氏の「桶川ストーカー殺人」以来のとんでもないノンフィクションだった。
おすすめ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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「でっちあげ」~福岡『殺人教師』事件の真相 への12件のフィードバック

  1. 黒澤明vs小津安二郎

    生前に世界で名が広まった「黒澤」、死後に評価を高めた「小津」 「七人の侍」や「影武者」など、ダイナミックでリアルな映像感覚で観客を魅了した黒澤明、「羅生門」でベネチア国際映画賞金獅子賞を受賞し、世界に日本映画の存在を知らしめた功績は大きい。 コッポラやスピルバーグといった今をときめく監督たちにも多大な影響を与え、「世界のクロサワ」として戦後日本映画界の頂点に君臨していたのは周知の通りだ。そんな黒澤が「恩師」と呼んでいたのが小津安二郎である。 小津作品は「晩春」や「東京物語」…

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  10. 名無しさん より:

    でっちあげwwwオチが

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