階段を登り、神社の境内から空を見上げると、青々とした空の中を白い雲がゆっくりと流れている。目を遠くへ向けると、日本海の荒波が、空高く隆起した岩々にぶつかっている。寄せては返して、また弾ける。どこまでも流れる雲と、果てしなく波打つ海…。ぼくは、永遠に溶け込むように、自分が自然の中に浸み込んでいくような、不思議な感覚に襲われた。
まさに、悠久の地とはこの島のことをいうのだろう。島根県本土からフェリーで三時間。周りを海に囲まれた隠岐島・海士町。その島の真ん中にドスンと居を構える隠岐神社は、この春も、ソメイヨシノの桜で溢れていた。風の音や鳥の囀りが聞こえてくる、ゆったりとした時間の中、桜の花びらが一枚一枚、少しずつ散っていく。その様子をボンヤリ眺めていると、この地で19年間ものあいだ、無為のうちに過ごして消えていった、1人の人物に思いを馳せずにはいられなかった。
かつて鎌倉時代。和歌の名手として知られ、宮中文化の中心にいた後鳥羽上皇は、承久の乱に敗れたのち、この隠岐島に配流された。京都での華やかな生活が一変、文明から隔絶された、離島の生活へと転落した……。
彼の詠う桜の和歌を読むと、虚しく散りゆく上皇の姿がどうしても頭に浮かぶが、桜は当時、必ずしも「散り行く」、死のはかなさを象徴していたわけではなかった。神社の神主さん曰く、「桜は元来、女性の生命の輝きや女性の美しさへの賛美」として捉えられていて、「死の思想とは無縁」のものだったという。
「はかなく」死にゆくこと対する美徳が生まれたのは、徴兵制が敷かれたあと、国のために死ぬことが国是となってからだった。実際、隠岐神社の桜・ソメイヨシノは1900年代に、軍国の花の象徴として次々と全国へ植えられた。そして何十万人もの命が、その思想に従い、無残に散っていった…。
戦後、桜は軍国の悪夢として憎悪され、伐採されていった。運よく残った隠岐神社の桜は、後鳥羽上皇の名前とともに、現在、絶好の観光スポットの1つとなっている。とはいえ、島全体は相変わらずもの静かで、自然と文化に溢れている。島民の人の、「移り行く季節感や空気を肌で感じることができる」という感覚は、上皇がいた頃から変わらないのかもしれない。何もないからこそ何かを感じ取り、そこに「もののあはれ」を見出そうとする。その意味で、上皇はこの島に来て幸せだったのではないか。
本当に思いを馳せなければならないのは、無残にも散って行かざるを得なかった人達である。粉雪が降り積もるように、地面に散り行く白い桜の花びらを眺めながら、強くそう思う。
-
最近の投稿
カテゴリー
- つぶやき・殴り書き (65)
- スウェーデン (125)
- スウェーデン(その他) (70)
- スウェーデン(政治・社会) (54)
- スウェーデン(旅行) (9)
- フィンランド (15)
- ベルギー (5)
- EU (59)
- EU Environment (9)
- EU TRADE (11)
- 英国離脱 (14)
- 自分事 (25)
- 評論・書評・感想 (43)
- 告知 (22)
- 政治参加・投票率・若者政策 (34)
- 旅行(全般) (29)
- 時事ネタ (14)
- 未分類 (8)
- 体験ツアー報告 (31)
Twitter アップデート
toshihikoogushi のツイートアーカイブ
- 2017年1月 (1)
- 2016年8月 (1)
- 2016年6月 (9)
- 2016年5月 (3)
- 2016年4月 (4)
- 2016年3月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年6月 (1)
- 2015年5月 (3)
- 2015年1月 (1)
- 2014年12月 (2)
- 2014年11月 (1)
- 2014年8月 (1)
- 2014年7月 (2)
- 2014年6月 (1)
- 2014年5月 (3)
- 2014年3月 (2)
- 2014年2月 (2)
- 2014年1月 (3)
- 2013年12月 (2)
- 2013年11月 (5)
- 2013年10月 (6)
- 2013年5月 (2)
- 2013年2月 (6)
- 2013年1月 (3)
- 2012年12月 (1)
- 2012年11月 (1)
- 2012年10月 (4)
- 2012年9月 (6)
- 2012年8月 (5)
- 2012年7月 (4)
- 2012年6月 (2)
- 2012年5月 (7)
- 2012年4月 (4)
- 2012年3月 (2)
- 2012年2月 (5)
- 2012年1月 (3)
- 2011年12月 (3)
- 2011年11月 (4)
- 2011年10月 (5)
- 2011年8月 (2)
- 2011年7月 (4)
- 2011年6月 (1)
- 2011年4月 (2)
- 2011年2月 (5)
- 2011年1月 (3)
- 2010年12月 (3)
- 2010年11月 (1)
- 2010年10月 (2)
- 2010年9月 (4)
- 2010年8月 (9)
- 2010年7月 (3)
- 2010年6月 (1)
- 2010年5月 (2)
- 2010年3月 (3)
- 2010年1月 (3)
- 2009年12月 (2)
- 2009年11月 (2)
- 2009年10月 (2)
- 2009年9月 (8)
- 2009年8月 (9)
- 2009年7月 (6)
- 2009年6月 (5)
- 2009年5月 (4)
- 2009年4月 (3)
- 2009年3月 (5)
- 2009年2月 (2)
- 2009年1月 (9)
- 2008年12月 (16)
- 2008年11月 (7)
- 2008年10月 (8)
- 2008年9月 (7)
- 2008年8月 (5)
- 2008年7月 (7)
- 2008年6月 (6)
- 2008年5月 (6)
- 2008年4月 (5)
- 2008年3月 (3)
- 2008年2月 (7)
- 2008年1月 (5)
- 2007年12月 (4)
- 2007年11月 (2)
- 2007年10月 (1)
- 2007年9月 (3)
- 2007年8月 (1)
- 2007年7月 (4)
- 2007年6月 (2)
- 2007年5月 (6)
- 2007年4月 (5)
- 2007年3月 (5)
- 2007年2月 (7)
- 2007年1月 (13)
- 2006年12月 (10)
メタ情報
おぉ!良い写真だなぁ。
>えふたか
あ、これ撮ったの、オレじゃない(笑)。
写真のプロの卵が撮りましたとさ。
大山鏡ヶ成 国民休暇村 周辺案内
大山鏡ヶ成 国民休暇村の周辺のお楽しみを案内します。■ 遊ぶ ハイキング ハイキングを楽しみたい人は。休暇村をスタート地点に、象山まで歩いてみては。往復で1時間ほどの間に、季節ごとの花々を楽しむことができるはずです。 とっとり花回廊 (…
木村藤子さんの鑑定と気づき
木村藤子さんの鑑定は、「気づきのすばらしさ」に重点をおかれていますね。
そして、いかに「自己本位」であったか反省させられ、いまある問題を、他のものに原因をむけるのではなく、自分の心の中に向けるようにお話ししてくれます。
木村藤子さんは、何かを話す前に、ちゃんとその人のことがお判りになられるようです。
でも、すべてをお話ししてくださるわけではないのですね。
だから・・・
断片的…