(ホームレスになってみよう①はこちら)
モスバーガーで目を覚ましたら午前8時過ぎだった。急いで公園に戻ってみると、あら不思議、僕の即席テントは跡形もなく消え去っていた。「やや、やられた!!」 都の職員か他のホームレスに持って行かれたのだろうか。いずれにしても、傘とブルーシートの代金1000円が水泡に帰してしまった……。
ホームレスと朝のラジオ体操を気持ち良くしようと思っていたが(ホームレスが参加しているかは不明)、その計画が潰れてしまった。仕方ないので公園を歩いてホームレスへのヒアリングを開始した。
(公園のブルーシート街@12時撮影)
テント周辺にはまだホームレスがいない。ひと回りした後、『ナイアガラの滝』の正面に下りて一望してみると、ベンチで顔を埋めて座っているホームレス(らしき人)たちを発見。さっそく一番右のベンチの、黒っぽいトレーナーにニット帽子を被っているおじいさんに話しかけてみる。
「どうもこんにちは、今日も冷えますねぇー。実は昨日、僕もあそこにブルーシートを張って寝泊りしていたんですよ。ほんとに雨は嫌ですね。あはははは」。何だコイツと言う目で俺を見るおじいさんは、しかしまあ、どこかで見た気がする。どこの誰だったっけ?……あ、そうだ。和田中学校のよのなか科で話をしていたTさんだ! (こちら→参照)。「えーと、もしかして和田中に来ていたTさんではないですか?」 「ええ、そうですが」 「あーやっぱり!!自分もTさんが話をされていた授業に参加していたんです。それで今回、ホームレスをやってみようと思ったんですよ」。
『よのなか科』(のご縁)で意気投合したTさんとは、これからベンチで三時間ほど歓談をすることになった―。
僕がまず聞きたかったのは端的に「寒くないのか」ということだった。昨日自分が過ごしてみたところでは寒くてとても耐えられなかったが、Tさんはそれに対してきっぱり「まったく寒くないですよ」と言う。ダンボールを敷いた上にブルーシートを何重にも重ねて、それに毛布と布団を被れば全く寒くない。雨が降った場合でも、彼の頑丈なテントなら問題はない。ただし、雨に弱いテントのホームレスたちの場合は、都庁の西館の下へと逃げていくそうだ。昨日、僕の横にいたおじさんも、屋根のある場所へと逃げていったように―。
お金は一切持っていないが食べ物には困っていない。最近ではもっぱらホームレスの仲間が食べ物を持ってきてくれるし、必要になれば拾いに行くし、知り合いのお店から分けてもらえるからだ。むかしは相棒(今はアパートに入ってしまった)と一緒に、美味しいものばかりを狙って懇意のお店を尋ねて塊のお肉や魚を食していたそうだ(というか食べきれないそうだが)。
この公園内のホームレスの数の印象について尋ねると、「数的にはあまり変わらないんじゃないか」とTさんは答える。毎週日曜日のお昼にある炊き出しには、常に300人ちかくの人達で溢れ帰っている。先週も公園いっぱいに列が出来るほどだった。「いや、ただし」と留保をつけて彼は続ける。「ブルーシートテントを張る人達は、かなりの数が減ったんだ」。例えば、上の写真では約10ほどのテントが残っているが、つい最近までは30近いテントが公園中に張り巡らされていた。しかし自立支援活動の普及によって、テントをたたむ代わりにアパートへ入っていく人達が増えたのだ。
「大阪ではテントを守る人と機動隊で衝突があったと言うから、正直ここも、いつ追い出されるかわからない。今度の東京マラソンでは公園が会場になっているからすぐにでも強制的に退去させられるかもしれない」。Tさんは不安げな表情を見せたかと思うと、今度は一変して楽しそうに続ける。「ほら、都庁のビルが目の前だろ。上から公園は丸見えなんだ。テントを作ろうとしていたら、すぐに連絡が入って警備の人がやって来たりするんだ。この間は、みんなでデモをしていたら、石原都知事が下りてきて、『無用な人間には早急に立ち去ってもらいたい』って言われたよ。彼の部屋からは公園が一望できるんだよ」。(←まさにパノプティコンだー笑)
Tさんは追い出されることに対してそれほど未練があるわけではなさそうだ。「まあ、その時はその時だから」とさっぱりしている。ただそれが「どこでも生きていける」という自信なのか「もうどうでもいい」という諦観なのかはわからない。僕はホームレスの社会的な位置づけは別として、その生活自体はそれほど悪くはないなと思っている。家賃もないし、高熱費もないし、食費もない。『~しなければならない』という義務もない(当然税もないから笑)。そして公園共同体の中では、緩やかな連帯もある。彼らは意外と生活を楽しんでいるのではないのか。Tさんに聞いてみた。
「いや、ホームレスなんてロクデモないよ。ダメ人間の集りだ。働かないで酒ばっかり飲んでいる。元々みんな何だかんだ借金を作ってトンズラしてきた連中ばっかなんだ。役所の世話になってアパートに入らないのだって、働くのが面倒で借金を払うのが嫌だからだ。仕事なら探せばいくらでもある。それでも働かないんだから」。
僕はこのような問いかけをあと二人のホームレスに投げかけた。彼らの答えも上と同じなものだった。「ホームレスなんて社会のゴミだ。とても世間に顔向けが出来ない」。そう彼らは言っていた。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
その内の一人のテントは新宿公園で最も大きいと聞いたので、厚かましくも中に入れてもらった。
(広いテント、というよりも完全に家です)
広さは6畳弱で(俺の部屋より広い笑)、下には絨毯が敷き詰められている。上には布団や洗濯物が干されていて、本や食器類もすべて揃っている。またガスコンロや七輪も置いてある―。僕のアパートより住みやすいことは確実だ。そこの住人(?)のSさんは、絨毯の汚れをガムテームで取りながら語る。「下にはダンボールを何重に敷いてその上にベニヤ板、ブルーシート、そして絨毯の順に入れてある。火もあるから全然寒くない。雨も問題ない。なかなか住みやすいよ」と。
この家(!)を作るのに三時間も掛からなかったというから、これはある意味才能だと言っていいと思う。これを何か仕事に生かせばいいのにと冗談っぽく言ってみると、「この生活を体験してしまったらもう戻れないよ」と笑顔で返答。「じゃあ、やっぱホームレスは楽しいんですか?」と続けざまに問いかける。「いや、全くそんなことないよ。起きてボーっとしているだけでやることないし…」。そう語るSさんはラジオ競馬を聴きながら広げたスポーツ新聞を眺め、結果を楽しそうに待っている。
部屋の真ん中にあるテーブル。その上のノートには、毎日の献立のメニューが記されている。今日の欄にはロールキャベツ。「これは、一体何ですか?もしかして毎日料理を作っているんですか?」 彼は笑顔で言う。「そうだよ。毎日誰が何の食材を持ってくるかを把握していて、それを下に僕が朝と夜の食事を作っているんだ。だからここで朝と夜は仲間と食べているんだ」。
「はぁー」と言うしか無かった。ここで食べて生きていけるのであれば、たしかに普通の生活に戻る気はしないなと思う。ただ、彼らは決して自分から「ホームレスって良いんだよね」とは言わない。様々な悩みもあるだろうし、世間の目もあるのだろう。常に「ダメ人間」で「社会のゴミ」だと自らを卑下して表現する。彼らがダメかゴミかは僕には分からないが、自分たちをダメだと思っている事実には共感できた。ホームレスの生活が最高だと開き直られては流石にそれは困る。フリーライダーのくせに何をいうかと怒りたくなる。でもそうはいっても社会があるところ、逸脱は必ず生まれるし、ちょっと変わった人も出てくる。この変人(僕は別にそうは思わないけど)の存在をどこまで許容しどこまで縛るのかの判断は本当に難しい問題だ。都庁も頭を悩ませているであろう(石原さんはもう態度は決まっているようだが)。
この問題を次に考えてみようと思う(答えはないけど)。
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メタ情報
読んでておもしろかったわー!!
体験しようとするのがさすがだね。
こんな大嵐の日でも、
写真の彼のテントなら大丈夫なのかなぁ?
リアルレポート興味深かったです。
短編ドキュメンタリー作れそうだね。
ぜひ、次回があったら呼んでね☆
カメラ片手にお邪魔させてもらいますww
いやー、楽しく読ませてもらいました。
まさか高橋さんに会うなんて!ほんとに新宿いたんだね高橋さん!
しかしまじでこのくそ寒いのにホームレス体験するなんてすごいな。
そこまでの行動力に脱帽です。
一人でネタ作って一人で行動して一人で表現して、
ゼロから全部やっちゃったな。
いやー、尊敬します。
○紫ちゃん
わーー面白かったって言ってもらえると嬉しい!!こんくらい量を書くと「けっ、なげーよ」と思われて読んでくれないんじゃないかとイジイジ思っていたから(^^)
大嵐のときのテントは、さすがにやばい気がするなぁ。骨組みごと飛ばされそうじゃない(笑)。(でも彼は三時間で作れるって言っていたし)。この公園は高い位置にあるから、雨はそれほど溜まらなさそうだったよー。
うん、これドキュメンタリーで撮ったら面白そうだね。交渉すれば顔も撮影OKもらえるかもしれないし…。ただ、どういう視点から撮るかというのが結構、難しいねぇ。俺がこの企画(?)をやろうと思ったのは、『ホームレス』っていうと、どのニュースメディアも基本的に『リストラに遭った人達』『可哀想な人達』『救済するべき人達』という一面的な構図、絵になる図でしか描いていなくて、それ以外の図、例えば、ホームレスの『緩やかな連帯』や『義務のない気楽な楽しさ』(これらは精神的豊かさの新しい価値観の創出に繋がるかなーと思っていたんだけど笑)、あるいは『酒を飲み耽っているダメ爺さん』が完全に欠落しているなと思ったからなんだよね。(もちろん、ニュースだから時間枠が少ないから仕方がないと思うけど)。
まあ今回聞いた限りでは、あまり気楽な楽しさは聞けなかったからアレなんだけど、ドキュメンタリーの場合は、ホームレスを考える③で述べたように、抽象的な社会問題とも組み合わせることができるからは結構、面白そうだわ。
もし三年で授業取ったら、これを撮ろうっと。次回よろしく(笑)。
○さとしさん
>まさか高橋さんに会うなんて!ほんとに新宿いたんだね高橋さん!
本当にいるとは思わなかったですよ(笑)。びっくりしました。まあ彼のおかげで何人かに深く話を聞けたので良かったです。よのなか科ばんざいです。また行くのでよろしくって言っておいたので、これから新宿行ったときには、寄ります(^^) ナイアガラの滝の右方向にあるベンチに座っているので、さとしさんも新宿行ったら声を掛けるときっと喜ぶと思いますよ。
こんにちは。
先日(?)のITCではどうも☆1コ下の政治学科Dクラスです。
以前のブログから読ませていただいてますが、今回のリアルレポがなかでも大変興味深かったので是非足跡だけでも残したいなぁと思いまして。
初めてコメントさせていただくので緊張します。。。
ホームレスについてという社会問題を、考えるだけではなく実際に行動なさっていて本当に尊敬します。うまくいえないのですがテレビカメラのレンズを通さず自分の目で「見て」、身をもって考えていらっしゃるというか。あ、でもなんか矛盾するようなコメントになりますが、くれぐれも体調にはお気をつけてくださいねっ(><)
あと読書棚2007の話になってしまいますが
『こうして僕らはアフガニスタンに学校を作った』
添谷教授の『日本のミドルパワー外交』
『ロミオとジュリエット』
は読書量の少ない私の読書棚にもはいっていました◎
なんかどれも☆3つ以下のものばかりです(笑)
いきなりのコメントで長々とすみません(**)
それでは失礼致します☆彡
>あやかちゃん
コメントありがとー☆
こういうの実際にやってみるのって楽しいんだよね、当たり前だけど(^^)
ただ現在、こういうプチ社会学フィールドワーク的なものが流行っているのも、基本的に社会を説明できる汎用的な理論が欠落しているからだと(東浩紀は)言っていてそれはそれでそうだなと思った。普遍的な理論がないゆえに、実際に「見て」「経験した」ということが他の人の説得に強く影響を持っているだけだと。
自分も実際にただ体験して「イエーイ!!」って楽しむだけはなく、それを継続的に観察して何かしらの問題点を抽象・言語化できれば最高だなぁと。(宗教と農業に興味があるので今後はそっちに取り組もうかと)。
>あと読書棚2007の話になってしまいますが
>『こうして僕らはアフガニスタンに学校を作った』
>添谷教授の『日本のミドルパワー外交』
>『ロミオとジュリエット』
>は読書量の少ない私の読書棚にもはいっていました◎
>なんかどれも☆3つ以下のものばかりです(笑)
☆3つ以下っていうのは、基本的に他の人にとってどうかよりも、僕が読んでどうに重きを置いて書いているからぶっちゃけ適当(笑)。
添谷さんのミドルパワーは、少しわかりにくかった。日本が大国の役割を演じるに当たって、他国に対して脅威を抱かせないための方便として「ミドルパワー」をあえて使っている感じがして何だかなぁーと思った。戦略的にはいいけど分析としては物足りないなと。
ではでは☆
①のコメントからの続き
②は凄く興味深かった。③も含めて。
オグシのインタビューの仕方は本当に独特で、
面白いわw
見知らぬホームレスの人に
「どうもこんにちは、今日も冷えますねぇー。実は昨日、僕もあそこにブルーシートを張って寝泊りしていたんですよ。ほんとに雨は嫌ですね。あはははは」。
なんてオグシ以外誰も言えない、というか言わないと思う笑
これは全然記事になるね!ただ、確かに新聞の方が似合う企画かも。
行数多めにもらって、是非やってみてもらいたい^^
>えふたか氏
見知らぬ人に話し掛けるのは大変だけど本当に面白い!!短時間の間でいかに親密になれるかが深い話を聞くポイントだからね。今回、俺が実際にホームレス体験をしたのも、親近感を持ってもらい、ラフに話を聞きだすための布石でもあったんだな(^^)
まあ媒体については掲載できれば何でもいいんだけどね。僕としては冒険シリーズの一つとして雑誌に載せたいという気もする。ヒッチハイク→ホームレス→宗教セミナーで(笑)。