不都合な真実

 「温暖化は、政治の問題ではなく、モラルの問題です」
 米国副大統領のアル・ゴア氏はスクリーン上でそう連呼する。これまで優に1000回以上、各地をレクチャーして回ったという彼は、衝撃的な映像やグラフィックを駆使しながら、雄弁に地球温暖化について説明する。地球が誕生してからどれほどの気温の変動があったのか、またそれと比べて、現在の気温がいかに異常であるのかを上昇するクレーンに立って声高に警鐘する―。
           
 データによれば、今世紀末には、最悪の場合、海面は6メートル、温度は6,3度も上昇すると言われていて、4度の上昇でも、約30億人が水不足に直面し、多くの水生生物は絶滅すると予測されている(毎日新聞より)。もうすでに人が住むことができないほどに深刻な島も出てきているという。
 他方、アメリカでは、温暖化現象の原因は人為性に帰属するという説に対して懐疑的な研究も存在してきた。しかし、それはすべてでっち上げだとゴア氏は述べる。新聞紙面ベースでは、その半分が温暖化に対して否定的な意見を載せているが、過去10年間の専門誌を調べてみると、温暖化を否定する論文はひとつもなかった。つまり、科学的な実証を無視した前者の(利益団体に扇動された)マスコミが、間違った世論を形成してきたのだと。
 彼は、民意が動けば政治も動くとして、とにかくこの事実を声高に訴える。(実際にブッシュ大統領も先の一般教書演説で環境問題を課題として取り組むと述べている)。環境に対して意識的でなかった人にもインパクトを与えられるという意味においては、非常に有意義な映画だろう。お勧めお勧め。
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 一方、この映画が日本人にとっては、あまり有効に作用しないのではないかと僕は危惧する。なぜか。ゴア氏は、アメリカがいかにこの問題に対して真摯に取り組んでこなかったのかを淡々と述べ、たとえば、自動車のCO2排出率の異常な高さを、特に日本やEUと比較して警鐘を鳴らしている。「アメリカはこのままでは、世界において行かれる。車も売れなくなるだろう。これでいいのか!」と。
 しかしそれが、あくまで「人類の未来が危ない」という博愛主義の文脈よりも、「環境問題に取り組めなければ国際競争力が低下してしまう」というパワーポリティクスの文脈の中で語られていることは明白であろう。その意味で、この映画は環境のゲームの中で、今アメリカは、「劣等の位置にある」から「今後頑張ろう!」という鼓舞に繋がるが、他方で、いま日本は「優等生の位置にある」から、それは結局、「あーよかった」という自画像の強化にしか繋がらないのではないかと思うのだ。
 ただ問題なのは、実際、日本はもはや環境問題において優等生ではないということだ。温室効果ガス6%の削減目標に対して、8パーセントが増加していて、今後は14%削減しなければならなくなっている。ドイツは着々と目標をクリアしつつあるし、EUもそれに続いている。超優等生のスウェーデンに至ってはもう80年代からマイナスを達成していている。またイギリスはブレア首相の下、確実に足元を固め始めている。
 
 アメリカだって、ホワイトハウスはまったく動いていにように見えるが、実は自治体や議員単位では水面下で取り組んでいるという。これから二年後、民主党に変わった瞬間にいきなり転換、環境のイニシアティブを取ってしまうということは十分考えられるだろう。参考
 地球に優しい面と国際政治の面での、環境を巡る問題はこれから熾烈な争いになることは間違いない。日本は政府として、温室効果ガスを一体どのように減らすのかを議論しなければならないし、国民は、その企業がどれほどクリーンなのかについて目を凝らしたり、その議員が環境問題にどれほどコミットしているのかという点も考慮して選挙に反映させたりする必要がある。 国民もモラルを問われているのだ。
 

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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不都合な真実 への2件のフィードバック

  1. えぴろ より:

    これみたい!!
    やっぱ環境問題って政府や大企業主導で
    ある程度強制された環境じゃなきゃ
    国民は動くのをめんどくさがりそうだよね;
    「ダーウィンの悪夢」も見たいです。。

  2. おぐーし より:

    >えぴろん氏
     コメントあざーす!!
     この映画は内容はもちろん面白いですが、それ以上にゴア氏のプレゼン上手過ぎてビビます(><) ああいう政治家がいたら即、投票ですよ!!
     >国民は動くのをめんどくさがりそうだよね
     そこなんですよね、(特に日本の)問題は。 海外(主にフランス)では、ダーウィンの悪夢←(お勧め☆)に出てくるナイルパーチ(白スズキ)の不買運動をやったり、デモが起きたりしてますからね。自分たちが政治を動かすという意識がありますからね。
     日本では選挙に行って投票すれば民主主義は保たれると思われていますが(それすらしていない人もいるし)、やはり他の手法(デモなど)での意義申し立ても必要不可欠だと僕は考えています。まあそれをやると、おかしい人なんだと思われる空気がありますから、気まずいですけど(笑)。
     政府や企業主導といっても、やはり限界がありますから、特にメディアがもっと啓発してそういう流れを作っていく必要があると思いますね。環境に配慮しなければ生きていけない前提を有権者・消費者の側の国民が作ってしまえば彼らも動かざるをえないですし。
     炭素税にしてもいずれ導入しなければならなくなるのならば、後手に回らずいま早く作ってしまうべきだと。
     まあ21世紀の「敵」はテロと同等以上に、環境だなと再認識しました。(あと
    、温暖化に関して、「ツバル」という本がお勧めです。もう沈みかけている島のルポです)

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