1920年代から1940年代までのアメリカンルーツミュージックの発掘、収集について
ブルースの起源を辿ると、19世紀半ばの南北戦争が大きな役割を果たしていることがわかる。戦争が終わり、それまでの共同体が崩壊し、黒人が解放されていく中で、孤独に個人の内面を歌う『フィールドハーラー』と呼ばれるスタイルが生まれた。このスタイルが従来の『ワークソング』と相まってブルースが形成されたと言われている。
このブルースが商業的に確立していくのが1920年代。レコーディング技術の発達とともに、南部へと分け入ってブルースを発掘する人々が出てきたのだ。(たとえば、マミースミスによって)発掘されたブルースが北部の黒人コミュニティーで人気が出ると、レコード会社は、それまで以上に土着の素朴なブルースを取り込むようになった。そうして焦点を『黒人』に合わせてレコーディングすることで、それまで曖昧だったブルースの担い手を黒人に固定化させ、結果として人種による分類化『レースレコード』=『ブルースは黒人音楽』『ヒルビリーは白人音楽』が加速された。
このようにマーケット論理を基盤にして音楽運動が高まる中、国家の側からも積極的に文化の発掘が奨励されるようになった。というのは、第一次世界大戦後のヨーロッパの荒廃に反して、国際政治の中心に躍り出たアメリカは、他と異なる独自のナショナルアイデンティティーをブルースやカントリーミュージックに求め始めたからだ。ローマックス親子は1930年代、そのような国家からの補助を下に、南部の土着のブルース発掘に向かった。それは他方で左翼的な民衆ロマンチシズムを少なからず宿していたが、大恐慌からニューディール政策への移行、そしてナチズムの台頭が背景にあったため、必ずしも共産主義的=悪とは考えられなかった。こうした国家の介入を経てブルースやカントリー音楽の発掘・アーカイブ化は進んだ。
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ロックンロールの誕生によって説明できるアメリカ社会の変化について
アラン・フリードが黒人音楽の印象の強い『R&B』というジャンルから『ロックンロール』を捏造してから数年後、エルビスプレスリーの電撃デビューは、それまでの『レースミュージック』=人種による音楽ジャンルの固定化を脱構築し、白人/黒人の区別のない音楽、ロックを確立させた。
また、ティーンエイジャー層に圧倒的に受け入れられた彼のロックは『青春(アドレセンス)』という社会的カテゴリーを形成しまとめ上げた。と同時に、この『若者』というカテゴリーが突出し、大人に対するアンチテーゼとして『反抗』という価値観が形成された。
エルヴィスのロックの人気の秘密の一つには、刺激的な性の表現が組み込まれていたことが挙げられる。ロックの先駆けと言われるビル・ヘイリーは、『アラウンドザロック』などで人気を博したものの、伝統や白人の聴衆を意識してセクシャルな表現は控えた。それと対照的にエルヴィスは禁じられた魅惑的なミュージックを操ることで若者のリーダー的な存在となった。そして、このような過剰な性表現の流布が、元来、厳格なピューリタニズム価値観が支配的だったアメリカ社会の性文化の裾野の拡大に貢献したとも言われる。
(スペシャルサンクス みちこノート、寺脇ノート)
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