12月30日の朝9時20分、島根の境港市からフェリー『くにが』に乗り込んだ。日本海の荒波に揺られ振られること約三時間、ついに目的地の隠岐諸島『海士(あま)町』に到着した。船を下りると、端から端まで見渡せる小さな島の全形が姿を現した――。
「これが島かぁ!!」 何度となく漏らすことになる「へぇー」とか「はぁー」の最初の感慨だった。我々は、そのまま役場の人の車に乗って「海士塾」という家に向かった。小さい島と言っても、港と町を行き来するには、やはり車を使わなければならない。険しい山道を右へ左へ揺られて登る。その山をひとつ跨いで下れば、また海岸に沿って船を右目に車を走らす。そうして港から15分、左手に木造建築の家が見えてくる。これが海士塾だ。玄関を出て真っ直ぐ20mも行けば、そこには透明な日本海が広がる、絶妙なロケーションに位置している。
海士塾には、すでに十人以上の人達が集っていた。囲炉裏がテーブルの真ん中にあり、その横で皆が焼ミカンを食べて寛いでいた。この年末は、みなで大掃除をしたり、餅をついたり、釣りをしたり、海士について「何ができるか」と話し合いをして、夜は酒を飲んで酒に飲まれて、隣の畳の部屋で布団を敷いて寝る―。そんな生活だった。
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そもそもこの家は、役場が外から来た人のために作った施設で、海士を盛り上げようと、あるいは島の雰囲気が気に入り、頻繁に本土から訪れた人達が使っている。特に2006年は役場の人と一橋大の学生が中心となって『AMAワゴン』という名前のバスを東京から走らせ、ハートの熱い学生や講師を島に連れてきては、中学校などで授業をするという活動も始めていた。
海士町では、人口が毎年減っていき、最盛期では7000人近くいたのが、今では2500人弱になった。地方分権が叫ばれ、交付金が削減される中で、「自分たちで島を何とかしなければ」という思いが役場の中から生まれてきた。町長自らが給料の50%カット、子育て支援の強化、隠岐牛のブランド化、I・Uターン人材の確保など、その改革はいまや他の地域のモデルとなっている。
そういう人達に刺激されてか、本土から移住者も少しずつ出てきている。例えば、岩本悠さんというカリスマ。彼は大学生のときに世界を流れるように旅をして、それを『流学日記』という一冊の本にまとめ、自費で出版した。去年までは某企業の人材育成などに携わっていたが、「海士が楽しそう」だと会社を辞めて今年の1月に移住をした。とにかく『自分の頭で考える』ことを大事にしている人で、彼と話をしていると、いつも「なんで」「どうして」「どこらへんが楽しい?」という絶妙な投げかけがあるため、何かしら新しい気づきが発見できるし、自分がいかに頭を働かせていないかが露呈される。そんな彼がこれから海士の教育にも携わるというのだから、目が離せない。
そうして盛り上がっている海士町だが、それでも「大学生が次々と島にやってきて、何か訳分からないことをしている」「役場は勝手に突き進みすぎている」と一般の住民の人に思われないか、という問題はある。島を本当に芯から活性化させるには、その地域の住民の人の理解と参加が絶対に不可欠だ。ゲストハウスやカフェを作るにしろ、イベントをやるにしろ、彼らに認めてもらった上で彼らを巻き込む形で立ち上げなければならない。共同体性が強く残るこの地において、そこは絶対に外せないところだからだ。
そのためにも両者が互いに胸襟を開いて話をするという機会をもっと設ける必要がある。「外の人間」と「内の人間」が触れ合い話し合うことによって起きる『化学変化』というのは、AMAワゴンのイベントから、予想以上に大きな効果をもたらすことがわかった。島の一部の人は、外からの新鮮なアイディアや考え方を学び、刺激を受けて、「島を何とかしよう」という思いに目覚めた。そういう住民をこれからももっと増えてくれれば可能性は限りなく広がるだろう。(もちろん外の人間にとっても島の創意工夫の生活は新鮮で、刺激的だ)。
②へ続く
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