日付が変わった12月29日、深夜1時06分。夜行快速の『ムーンライトながら』が小田原駅のホームに入ってきた。黄色線の前には場所取りのため、早くも臨戦態勢の人達が―我らを含め―数十人も列を成して待っている。車内の乗客が、我々を哀れみと好奇の目で見つめる中、ついに、争奪戦の幕が切って下された―。
「シャーーー」 電車のドアが開くと、場所という場所を目指して車内に乱れ突っ込んでいく。次の瞬間にはもう荷物を置き、風呂敷を広げ、ドスンと座り込む人々と、戸惑い立ちすくむ人々の姿に別れていた。そこで勝負は決まった。空間(通路)を陣取ればそこが寝床となり、それから6時間を優雅に(?)過ごせるが、負けると残念ながら出入り口で立ちながら寝なければならない。僕ら三人は運よく喫煙席の端へと雪崩れ込むことができた。
(その瞬間の『明暗』を写真に収めたかったが、カメラを向ける勇気がなかったため、その4時間後、人が少なくなった時間にこっそり撮った。それでもまだ立っている人がたくさんいた↑)。
「良かった。いい経験が出来た」と笑って話す三人だったが、こんな厳しい事態だとは思っていなかった。青春18切符で『ムーンライトながら』を使えば、夜中に東京=大垣間を通過できる。そのためには指定席を取る必要があるが、この時期は人気があるためなかなか確保できない。それに溢れれば僕らのように小田原駅から『参戦』するしかないのだ。
大垣駅に着いたのは朝の7時半過ぎだった。雪の影響で電車が遅れてしまい、調べてきた乗換え時刻がズレ始めていた。「ま、大丈夫だろ」と気楽な感じで特に気にしていなかったが、周りを見渡すと、旅格好をした人達はかなりの割合で時刻表を持ってチカチカ調べていたので少しビックリした。
粉のように細かい雪が舞い、風が吹き込んでくる。8時10分、滋賀県・米原行きの電車がやってきた。車両が少ない分、混雑は東京のラッシュよりももっと狭く厳しい。何よりも荷物が体にブチ当たるのが痛かった。
(米原の途中に関が原を発見) (米原駅で電車を待つ人々)
米原駅に到着したのが9時過ぎ。ここからは一気に京都駅まで突入する。9時30分にやってきた電車に我々が飛び乗ると、農大の人達と座席が一緒になった。料理サークルで来ていて、彼らも関西の『島』へと行くのだという。四年生の人がひとりオカマっぽい雰囲気で面白かったが、その点にはだれも突っ込まず、栄養師の話や仕事の安月給とかアルコールの話で盛り上がった。そして11時50分、ワイワイしているうちに京都駅についた。小田原を出てから、実に、10時間強が経過していた。
このあと京都から鈍行電車でゆっくりと寝ながら兵庫県を目指して進んだ。途中、慶應生ならば携帯の駅検索で馴染みの『日吉駅』を発見したりして愉しく福知山まで突っ走った。
休憩を入れずにそのまま兵庫県を北上し、午後4時には『浜坂駅』へ到着した。あとは鳥取を横断して端っこの『米子』まで着けば29日の目的は達成だ。ゴールが見えて余裕が出てきたこともあり、ここらへんで温泉に入って夕飯を食べて休憩しようと決まった。独特の塩分の強いお湯に入って、ドロンドロンになったところで、一杯のビールを食らえば、もう極楽トンボ。疲れもぶっ飛びハイテンション。
晩飯は年末のせいか店が閉まっていたので駅前のコンビニでお酒とつまみと主食をたらふく買占めて、駅の中にある休憩所で食べることした。一人あたり2000円の大パーティだ。ビールと焼酎とワインを片手に、ワイワイがやがやしているうちに午後18時15分、鳥取行きの電車が来た。
場所を休憩室から『電車内』に変えて、さらに宴会の続きをやってヒートアップ。車内には乗客が全くいなかったので遠慮はいらないのである。「鳥取の学生は電車の中で飲めば場所代が浮くなぁ」とか意味のわからないことを言いつつ、電車を一つ乗り換えて飲みに飲んですべての酒が無くなってしまった。同時に意識もなくなってしまっていた。
ふと気がつけば、もうそこは『米子駅』だった。時刻は21時過ぎくらい。駅員さんが「車庫に入りますから早く出てください」と僕たちを引きずりだそうとしていた。約一名が完全に潰れていたのと、ネットカフェやファミレスが遠かったため、もうその駅で寝てしまおうということになった。荷物を枕にして足を伸ばして目を閉じ始めた。
「…もしもし、…もしもし、ここ閉めるので出て行ってください!!」。床に横になってウトウトし始めた午前1時過ぎ。またしても駅員に叩き起こされた。しかもこの時間に外に出ていけというとんでもない知らせとともに……。僕たちは行く当てもなく、とりあえず外に出た。雪は止んでいたが、道路は一面、真っ白く覆われ、固まって滑りやすくなっている。手をポケットに入れながらこすりつける。かなり寒い。早くファミレスを見つけなければと思ったが、タクシーで行くのはお金がかかるし癪に障る。我々はひと通り歩いて探してみることにした。
駅から真っ直ぐに歩いてみると、ここは本当に何もないことがわかった。15分ほど行くと大学病院があったのでそこに泊めてもらおうと寄ってみたが、ピリピリと緊張した感じで、とてもそんな雰囲気ではなかった。断念してトイレだけ借りてまた来た道を戻ることにした。 しかし、いきなりF彦が道路の真ん中に立って、「ヒッチハイクすれば大丈夫だぁ!!」と、手を広げだした。こんな夜中に、しかも怪しい人間が三人もいたら誰が乗せようと思うだろうか。「今回はさすがのお前でも無理だよ」と冷ややかな目で見ていた僕とN子だったが、なんと開始五分、一台の車が止まった。「そんな馬鹿な!」と詰め寄ったが、運転手の女性は笑顔で「いいですよ、ガストまで乗ってください」と言う。彼女は先の大学病院に勤務していて、ちょうど帰るところだった。なお彼女は昔、慶應のアメフトのマネージャーをしていた(!)そうで、僕らは縁や繋がりというものの不思議を実感させられた。ガストに到着したあとお礼を言って別れたが、僕は『人間の優しさ』に触れたことに感慨にふけながらキムチ雑炊を食らい、倒れるようにして寝た。―このときすでに午前3時だった。
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すげぇなww
ヒッチハイクって成功するんだなぁ。
ムーンライトながら はカオスだよな。
四国旅で乗ったが、指定席ないときっついすなぁ。
僕はばっちり喫煙車両の席に座ってたけどww
えふたか>
ヒッチはやってみると成功するもんだね。オレも島根から帰るのに全部ヒッチで帰ってきたのさ。ははは(^^)。ムーンライトは指定席ほしいなぁ、絶対。