本書は、外交ジャーナリスト手嶋龍一と外交分析のプロ、佐藤優の対談本である。
『情報戦争を勝ち抜くためにも、日本版NSC、CIAが必要だ―』
彼らは留保を付けながらも、そう主張する。
ただ、勘違いしてはいけない。
今の日本は、インテリジェンス能力において、決して劣ってはいない。
『軍事大国は、インテリジェンス小国になりがちだ』。外務省のラスプーチンと呼ばれた佐藤は、ソ連消滅後、アメリカの情報力が弱体化したことを指してそう述べている。
そもそも、『インテリジェンスや情報力とは、自分の弱いところをできるだけ隠して、強いところを実力以上に見せる技法』である。その意味で、軍事力が圧倒的に強い国には情報力が育ちにくい。情報力に頼らずとも、最終的には軍事力で解決できるからだ。それに対して、イスラエルのような小国は、情報の判断を誤れば、それこそ国の滅亡に関わってしまうため、インテリジェンス強国なのだ、と。
だから、『非軍事大国にして経済大国である日本は、ウルトラインテリジェンス大国』でありえる。そして、TOKYOは、情報の集まる豊穣の地であり、約束された場所であると。
ただ、そういう潜在力はあっても、今の日本はその力を発揮できていない。むしろ、これからの情報戦争において、現状のままでは危うい立場に追い込まれる可能性を指摘する。
端的に言って、良い人材がいないのだ。
冒頭では、日本版NSCの必要を言っている。だが、二人は、今検討されているアベ版のインテリジェンス組織に懐疑的だ。器だけ作っても、それを運用できるプレイヤーがいないなら、余計危ないと。
だから、彼らはインテリジェンスに長けた人材を育成する制度、機構を作れと言う。
まずもって、今の官僚は気概と学術的素養が足りない。
直接的に言えば、『大学で勉強していない』のが前提として問題だ。
さらに、官僚の制度も問題だという。
官僚は、2年間を研修期間として課せられるが、その後はひたすら働くことを強いられる。
極端に言ってしまえば、つまり、大学時代の4年間プラス研修の2年間、合計6年間の知識蓄積によって、40年間を働かなければならない。それでは、外交を行う上で、知識の次元で負けてしまう。
これでは、ダメだ。
彼らが提案するのは、『ミッドタームキャリア』として、定期的に『学習の機会』を作ることである。
加えて、手嶋龍一は、ジャーナリズム組織も同様に『焼き畑農業』だと指摘する。
そして、このミッドタームキャリアを適用せよと主張する。
(以下引用 http://www.ryuichiteshima.com/review/review_sub14.htm)
いまの日本のジャーナリストの仕事を、僕は自嘲をこめて「焼き畑農業」と呼んでいるのです。いわゆる中間研修、ミッドタームキャリアというものが、この世界には基本的にないんです。日本の学生は総じて大学できちっと勉強していない。僕らの職場の中でも、学生持代の勉強の話をする人間なんぞお目にかかったことがありませんからね。そういう人たちが新聞社や放送局の記者になると、毎日毎日、夜討ち朝駆けでやっているからミッドタームキャリアを積む時間もない。日本のジャーナリストはリタイアが早くて、すぐデスクになって現場を離れてしまいますが、結局、そのくらいで燃え尽きちゃうんです。焼き畑農業と同じで、それまでの蓄積を使い果したらおしまいです。「生涯一捕手」のような生き方は、この世界ではまずありえない。僕は幸いなことに、アメリカでミッドタームキャリアを受けることができました。そうすると、そこで新たな蓄積ができるわけですね。いま六者協議で韓国側の代表を務めている人物とは、このとき2年間、寝食をともにした仲です。あるいはスペインのカルロス国王の親友でもある大新聞社のオーナーとか現在のコロンビアの国防大臣もこのときの仲間です。ミッドタームキャリアの中で、新たな人脈を得たり思索に耽ったりすることは、その後の仕事に非常にプラスになります。
××××××××××××
僕は、彼ら二人の主張には、基本的に賛成である。もちろん、CIAというと、ロシアKGBや公安警察などが頭に浮かぶし、暗殺とか監視といったネガティブ要素が付きまとう。そこには留保は必要だ。だが、上で述べたように、もし日本が非軍事でいくのなら、なおさら情報力は不可欠になる。日米同盟の空洞化が叫ばれる中で、必ずしも理想主義だけを語るわけにはいかない。それに、今のままで中身のない器だけの、(アベ版)インテリジェンス組織など、もっと危険である。ちゃんとした人材を、制度的にバックアップするべきだろう。
ただ、僕がもっとも危惧するのは、その前提の、『官僚の気概』についてである。
宮台シンジは、『パブリックコミュニケーションが、学生にとって魅力的なものではなくなっている』と指摘していた。学生がいま、一番関心があり、カッコイイと思っているのは、極論すれば、『お金儲け』である。パブリックなことを話すことに興味がないし、公的なものにコミットすることは、もはや関心を引かない。極端な右翼や左翼が、『俺たちの運動は高貴なのだ。なぜなら、俺たちはお金儲けのために行動していない。『国』のために自分を奉仕しているのだから』と言うのは、それ自体まったく馬鹿げている、だがその中にも一理ないとも言い切れないだろう。
愛国心は大事だと語りながら、外資系ファンドやコンサルに入っていく、学生たち―。
かっこいい(よさそう)というのは、分かる。儲かるというのも、分かる。
それがいまのファッションだということも分かる。
けれど、何か、釈然としないのだ。
『公的なるもの』は、もはや国家だけではない――。そう主張する人もいるだろう。
だが、そう言う人は、本当に国民国家の『必要悪』に自覚的なのだろうか。
『パブリックなるもの』に対する意識の変化。
安全保障や愛国心、国の根幹に関わる議論は、これを通さずには語れない。
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佐藤優の本は二冊程読んだけど、主観で論理の飛躍があったりで「客観性」が完璧に抜け落ちてて少し恐いな、と思ったり。
まあ面白そうだから俺も読んでみるわー
T山さん
『国家の罠』ですか。まだ読んでいないので何とも言えませんが、
完全に彼は、『嵌められた側の立場』で書いていますからね。
手嶋さんは、「いや、あんたにも非があったんだよ」と書いていましたが。
それにしても、幻冬舎って、
かなりピンポイントにツボを突いてくるなぁと。
すごいなぁと思ったりしました。
右翼と左翼にしても、
知るべき情報と知りたい情報が合致しているなぁと。
俺だけかもしれないけど笑。